山岳登攀ノ図 その二十
1987.5.3 鹿島槍ヶ岳北壁主稜
 メンバー 東田,石際

下部を左よりのルンゼから詰め,東田は二つの氷瀑の下でピッチを切った。

次はわしの番。右手の傾斜は強いがグサグサの氷壁(写真右の小さいほうの滝)をダブルアックスで右上し,右手のリッジを目指す。
ちょうど滝の中間にかかったとき,一発目の雪崩が落ちてきた。
北壁に早くも日が当たり,腐った表層の雪が落ち始めたのだ。両手両足に力を込めて,振り落とされないようふんばる。湿った重い雪はかなりの抵抗があったが,なんとかやり過ごすことができた。

少し登ったところで二発目が来る。さっきのやつよりかなり量が多い。ドーンと落ちて来た雪崩に,両腕が伸び,壁から引き剥がされそうになる。一瞬,東田のいるブッシュ1本のしょぼいビレーポイントが脳裏をよぎる。
もう一発来たら落ちる。ランニングも取ってない(取るとこない)ので2人でカクネ里までダイビングだ。

腹に溜まった重い雪を必死で振り落とし,全力疾走でリッジへトラバースする。露岩にナイフブレードを叩き込みランニングを取ったそのとき,さらに大きい雪崩が滝の上を落ちていった。

その後はリッジに調子よくロープが伸び,傾斜の落ちた雪壁まで達し,一本入れる。

見下ろすカクネ里にはまだ北壁に取り付こうとするパーティーがいくつか見えた。ルンゼというルンゼからは大きな雪崩が流れ出し,蟻んこのように見えるクライマー達は右へ左へ逃げている。その光景を妙に現実感なく眺めていたのであった。

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