訪韓日記

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 プロローグ

 

「ヨボセヨ」

「ヨボセヨ」

「アニョハセヨ」

「ネェ アニョハセヨ」

「チョヌン イルボン イムニダ リエイキュウシ イッソヨ?」

(私は日本人です。李英九さんみえますか。)

「○×△□?!?????」

「ペグンサンジャン イエーヤク プタッカムニダ」

(白雲山荘の予約をお願いします。)

「○×△□?!?????」

以下同様の会話?しばらく続く

「 ?? チル、??クー、??イル ???? コルセヨ!」の繰り返し

(これは電話番号をいっているようだ。言われたとおりメモする。)

「カムサムニダ」

 

「ヨボセヨ」

「ヨボセヨ」

「アニョハセヨ」

「アニョハセヨ」

「チョヌン イルボン イムニダ ・・・・」

「日本語でいいですよ」

 

こうして僕の韓国への旅は始まった。

 

 

9月13日(木)

前日ニューヨークで前代未聞のテロがあり,その影響を心配したが、アシアナ航空機は無事離陸した。2時間のフライトでついたソウル、仁川国際空港は快晴である。1440

 

到着ロビーへ出ると、運転手を連れた白雲山荘主人,初老のリーさんが僕達をすぐ見つけてくれた。リコンファーム(アシアナは必要ないらしい)と両替のあと、駐車場に止めてあるジャンボタクシーで一路トソンサへ向かう。空港からの高速道路は片側10車線ほどもある広い道路で途中の橋も東京ベイブリッジを彷彿とさせる(見たことはないが)立派な橋でコリアン(ゼネコン)パワーに圧倒される。

 

ソウル市内に入るとハングルの洪水で絵(豚、鶏、ビールジョッキetc.)が書いてある看板がない店は何の店なのかさっぱり分からない。

出店が多い牛耳洞(ウイドン)の門前町を抜け急な坂を登ると、トソンサの広場についた。1650

タクシー代は140,000W。リーさんは今日は「下」ということで,そのままタクシーで帰ってしまった。

 

シャトルバスの時間を売店のおばちゃんに聞いていると、ハイキングのおじさん65歳が英語でいろいろ(家族のことまで)教えてくれた。シャトルバスはトソンサの仏教大学学生のためのもので,毎日午後820まで不定刻に運行されているらしい。

 

入山料1300wを払い,クライミングギヤで膨らんだザックによろけながら登山道を登る。登山道沿いにはハングルの看板(たぶん立入禁止)と物々しい鉄条網が続く。峠から少し行った所でインスポンの岩場がよく見える展望地点がある。はじめてみるインスポンは大きくてツルツルであんなとこ本当に登れるのーって感じだ。

 

1時間ちょっとで白雲山荘に着く。小屋の前のベンチで管理人のリー・ケン氏(リーさんの息子さん)の持って来てくれた歓迎のビールを飲む。寝室に荷物を置いてきてすぐ夕食。キムチ数種類、ワカメ味噌汁、チジミ、焼肉などとてもおいしい。

 

夕食のあと山荘に常駐の主任ガイド、ソーさんがルート図を見て片言の日本語と英語(「ノーボルト、イージー」連発)で説明してくれる。一見托鉢僧のような風貌である。実際就寝のとき延々とお経を唱えていた。寝る部屋には布団がなく板敷きに横になったが、あまり寝られなかった。下からお経が聞こえる。真夜中にも外から木魚とお経の声がした。

 

9月14日(金)

明るくなって浅い眠りから覚める。朝ごはんは730から夕食と同じ内容で、朝から腹いっぱい食べる。

今日の活動は僕と入野さん小森さんのおじさんチームがショイナードAB,太田さん加藤さん佐竹君、前田君の若者チームがガイドのソンさんの案内でショイナードB、インスAバリエーションに行くことにした。

 

山荘のトイレの前の道をたどり緩いガリーを降りるとインスポンの基部にすぐ着く。おじさんチームは私が先頭で基部を回りこんで行くが、岩場の概念が分かっていない僕は下部スラブまで回り込んでしまい、入野さんの指摘で気がついた時にはインスポンからかなり離れたとこまでハイキングしてしまっていた。1時間のロスタイム。戻ってみるとショイナードAの取りつきは大スラブのすぐ右上であった。すでに若者チームはBの2ピッチ目を登っている。

 

1040 僕リードで登攀開始。5.65.75.8とだんだん難しくなって行く。今回のインスポンで感じたことは5.8でも侮れないと言うことだ。5.8はデシマルグレードができた当初は1〜9までの分類で2番目の難しさだ。クラッシックルートではこのクラスでも結構登り応えがある(僕には)。ソーさんに言わせれば「イージー、イージー」の一言であるが。

 

さて核心部。ハングをガバガバと登り,奥がハンドのフレアしたチムニーに入りこ・・めない。過剰装備でいっぱいぶら下げてきたフレンズ、キャメロットが邪魔をしているのだ。ハング上でニーロックしたまま左側にぶら下げたギアをごっそり右に移す。すごい量に自分でもあきれる。

 

その後は30mハンドジャムとチムニーのコンビネーションで持久戦。クラックの横には10mおきぐらいにボルトがある。ソーさんが打ったらしいが不要なボルトだ。小森さん入野さんも問題なくフォロー。ここまでで懸垂下降する。ルートは真っ直ぐでピンもしっかり打ってあるのでスムーズに取りつきまで降りる。1400

 

まだ時間があったので2本目に取り付く。

すぐ隣のショイナードBAの力ずくのクライミングと違い,デリケートなバランスがいる。2ピッチ目はけっこうマジになってしまった。もう少しフリクションの限界を感覚で理解すればスムーズに登れると思う。ルートは洞窟チムニーから奇妙なホールドのフェース。ダブルクラックと変化に富んで面白い。

 

最後のチムニーを抜け,耳岩の下まで延ばすと地元のクライマーがテラスに陣取っている。太い鉄杭のアンカーが一箇所しかないのでカムでアンカーを作り,セカンドを迎える。ソウルの眺めが素晴らしい。1700

韓国パーティーと少し世間話をし,彼らが先にアンカーを使わせてくれたので,オアシステラスへ懸垂下降する。彼らはチョコパイの土産までくれた。

 

山荘に着くと若者チームは既に食事を済ませ,酒を飲んでいる。楽しいクライミングができたようで,明日も半日ソンさんにガイドをお願いすることにしたらしい。おじさんチームも予定どうりの活動ができたので,酒もうまい。

寝る時ガイドのソーさんと免税店で買ってきたバーボンを飲む。今日はお経はなかったが,蚊に悩まされた。

 

9月15日(土)

今日は仁寿峰のピークと,大スラブを登ってみるのがメインテーマ。

僕ばかりリードでは面白くないだろうと入野さんか小森さんにリードをしてもらうことにして出発したが,大スラブ下まで来ると2人とも元気がないので,今日も僕がリードすることにする。

 

易しいクラックから傾斜の緩いスラブを登っていく。途中1本だけボルトがある。今回のマルチピッチのために買ったばかりの大きめのアルパインタイプのシューズではフリクションの限界がまだ把握できていないので慎重に登る。適度な緊張感があり面白い。2ピッチ目もボルト1本で50mロープを伸ばし,アンカーに届かなかったのでビレーを解除してもらいコンテで少し登りインスBのテラスに着く。

 

若者チームがクローニー経由で上がって来る。次の広いクラックを先行させてもらう。最後のOWがチムニー登りでは突破できず,もたもたしていると,ソンさんが上がってきた。聞いてみるとここは「レイベック」というのでクラックの丸っこいヘリをレイベックする。けっこう微妙。ソンさんも慎重にチョークアップしながら登ってくる。うーん,きれいなムーブだ。地元のクライマーはビレーポイントに着くとすぐ靴を脱いでいる。きつめのシューズで微妙なフットワークをこなしているのであろう。

 

後は問題になるところもなく頂上までスムーズに登る。また地元クライマー(5.10のアプローチシューズで登ってきていた)に話しかけられる。快晴でほんとに気持ちがいい。登山道のある隣の白雲台のピークにはハイカーがいっぱいで,ヤッホーとかウオーとか叫んでいる。ぼけーと景色を眺めていると,なにか和んでしまい,懸垂して降りたら山荘へ帰りたくなってしまった。

 

2ピッチの懸垂で基部に着く。山荘までちょっと迷った。山荘に着くと若者チームがすぐに降りてくる。ソンさんの登山学校の生徒,女性クライマーのナンちゃんとチョーさんがソウル市内のクライミングウオールへ案内してくれる話になったらしい。

 

早々にパッキングし山荘のチェックアウト(7人で332,000w)とガイド料(1.5日4人で400,000w)の支払いを済ませ,ソンさん,ナンちゃん,チョーさんとともにトソンサへ下山する。山荘のソーさん,ケンさんにさよならする。トマンナヨ カムサムニダ(また会いましょう。ありがとう。)

 

トソンサからは満員のシャトルバス(無料 お賽銭を上げる)に乗せてもらい,牛耳洞へ。タクシーに分乗し1台17,000wぐらいで鷹峰洞(ンポンドン)に着く。ソウル市内は結構車が多く1時間近くかかった。

 

タクシーの中で,ナンちゃんがインスポンの登山学校について説明してくれた。ナンちゃんは日系企業に勤務していて日本語がうまい。登山学校は韓国のレジャー企業が主催している登山講習会で春秋年2回5週間にわたり開かれる。内容は技術の机上講習,クライミング実技講習,登山の歴史,山の歌等広範囲にわたる。特に資格を取得するためのものではないが,楽しくまた実践的であるということで人気があるらしい。

 

鷹峰洞につき路地を入っていくと公園があり幅20m高さ20mほどの屋外人工壁が現れた。トイレから照明まである立派な施設で,区の管理。使用は自由。無料である。

ルートは韓国の有名な5.14クライマー ソン・チョン・チュン氏(当日,氏のクライミング講習の様子を少し見ることができた。)によって設定され垂壁から120°を超える前傾壁まで20数本ある。すべてリードで取りつき,セカンド以降はトップロープもできる。小学生から初老のクライマー,初心者のような女性から5.12クライマーまで気軽にリードに取り組んでいた。

中にはロングフォールするもの,となりのルートと重なってリードしているものなど,安全管理はどうなっているのか心配になるシーンもあったが,楽しく登る雰囲気は最高であった。照明により夜10時まで登れるそうだ。

 

ソンさんが確保してくれ,易しめを2本リードさせてもらう,ガバガバでぐいぐい登れ非常に気持ちが良い。簡単だがムーブに注意して登る。インスポン,登山学校,人工壁とソウルのクライマーのクライミング環境はうらやましい限りであった。

 

6時に旅館(市庁近くの大祐旅館1泊2000円)にチェックインの予約がしてあることもあり,そろそろありがとうを言って帰ろうと思ったが,加藤さんがなにやらナンちゃんたちと相談している。結局旅館には10時にチェックインする旨電話を入れることにし,東大門市場のクライミングショップを案内してもらってから一緒に食事をすることになった。

 

バス(500W)で東大門へ移動,クライミングショップで5.10のアプローチシューズ(5000w)とソンさんが店の人から在庫処分で分けてもらったキャメロット0.53000w)2個のうちの1個を横取りして,ショッピング終了。店の裏の路地を入った豚カルビの店(サンミージャン)に案内してもらう。豚の骨付きカルビとプルコギをたらふく食べメッチュ(ビール)とソジュ(真露)も十分いただき1人1500wであった。

 

ソンさんが雪岳山ウルサンバウイのビーナスルートを登った話をしてくれた。ソウルのクライマーにはインスポンがゲレンデで雪岳山が本番であるらしい。店のちょっと女優(何の女優かは言えないが)に似た威勢のいいおねーちゃんが,「サービス,サービス」連発で葉っぱにカルビと韮,ニンニク,味噌などを包んで食わせてくれる。ひとのを見ていると間抜けな顔に見える。

 

楽しい時間ほど早く過ぎるものである。店を出て地下鉄の駅でまた会いましょうと約束しお別れした。

 

大祐旅館にチェックインし狭いダブルベッドの部屋に前田君と入る。前田君がシャワーを使っている間,フロントで缶ビールを仕入れてきて飲みながらニュースを見る。ビルにジェット機が突っ込むシーンを何回も見る。しびれた頭のすみで考える。ここにまた来られるだろうかと。

 

平成13年9月29日記