滝谷出合〜第四尾根冬期登攀
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1989年12月29日〜1990年1月2日
メンバー 北村憲彦,小林亘,鈴木晴人,石際

1年前の冬も小林君と出合から第四尾根登攀を計画しましたが,私のケガで出合からの登攀をあきらめ,稜線から下降しクラック尾根を登るに終わってしまいました。今回は北村さん鈴木君という強力メンバー参加で春日井山岳会近年にない大人数パーティーとなりました。以下行動の概要を書きたいと思いますが,またまた資料が散逸しておりタイム等は北村さんがその後「岳人」に執筆した記録とガイドを参考にしたものです。

初冬の滑滝
プロローグ

1988年10月15・16日
小林と滝谷出合から偵察に入る。前日までの降雪で北アはもう冬の顔である。偵察とは言っても本番の覚悟で入山する。

1日目
出合から雪がある。雄滝は左の岩稜からトラバってスムーズに越す。その上に大きなスノーブリッジがありベルグシュルンドを通り抜け氷河のセラック帯の雰囲気である。その上に滑滝がある。まだ雪で埋まらず水が流れるスラブ状の滝は非常に往生こいた。
1ピッチ目,滝の右壁を小林がリード。かぶり気味でフレンズの人工などしてのっこす。
2ピッチ目,雪とベルグラの着いたスラブを石際リード。出だしからホールドがとれ滑落する。だましだましスタンスを雪で固め登るが行き詰まりハーケン3本連打して人工で抜ける。
その上の40m滝は滝の左壁を小林リード。ここもかぶり気味で雪がスタンスについて悪く緊張する。小林も泣きが入るほどであった。その上はまた雪渓を詰め,F沢合流点上で時間切れとなり,右岸の岩の下の雪をならしビバークする。まだ寒さに慣れていない体にはシュラフカバーのビバークはつらかった。

2日目
第四尾根登攀はあきらめ,C沢を詰めて取り付きを確認するため,空身で出発。登るほどに雪が増え,ひざ上までのラッセルを続けるが第四尾根の取り付きがわからない。もうかなり登ったはずなのにおかしいと思い右の小尾根に上がりよく偵察すると,なんと我々は間違えてD沢を登っていたのであった。第3尾根と思っていた左の尾根が第四尾根らしい。よく観察し下降する。ビバーク地まで戻りC沢とB沢の出合を偵察する。参考にした白山書房発行の「穂高岳の岩場」の概念図には誤りがあった。スノーコルまでは時間がなくC沢の入口を確認後下降。

各滝はハーケンを打ち加え懸垂下降する。雪の締まっていないガレはアイゼンでは歩きにくかった。今回は第四尾根の取り付きまでも行けなかったが,滝谷の冬の顔を垣間見ることができ(特にドームの印象は強烈であった)冬合宿に向けて意欲が湧いてきた。
結局その後,金華山ランニング中に捻挫し出合から滝谷登攀はお預けとなる。
訂正後の滝谷概念図
偵察なしで出合から滝谷に入りD沢に入ってしまい敗退するパーティーが結構いるらしい。

1989年12月29日小雪
先日の夜に新穂高に着いたが,ガスボンベを忘れたことに気がつき,高山のコング(スポーツ用品店)まで買出しに戻る。幸い今日の行動予定は滝谷の非難小屋まで。非難小屋に早く着いたので,ラッセルを兼ねて雄滝偵察をしておく。

新穂高(3時間)滝谷出合非難小屋

12月30日小雪のち吹雪
4時ラテをつけて出発。暗いうちに雄滝を左手の凹角から100mほど登り雄滝上部へトラバースするがここが不安定で結構悪い。雄滝を越え4人でどんどんラッセルを交代し,ひたすら登る。下の写真はやっと明るくなり始め,奥に滑滝が見えたところである。滑滝の通過は胸までのラッセル。焦りと雪崩の恐怖とが重なり,すごいストレスだった。合流点まで必死でラッセル。今回は各沢の入口を完全に把握しているので迷うことなくC沢に入る。天気は下り坂。スノーコルに11時着。整地しテントを張る。吹雪となりテントがもたないのではないかと思われるほどの強風が続く。

非難小屋(5時間)合流点(2時間)スノーコル

12月31日吹雪
前日の強風は翌日も続き,今日は沈殿することとなった。だーれもいない冬の滝谷であったが,4人は1日中かえ歌など作ったりしながら楽しくすごした。フライが強風で破れる。数回除雪。

1月1日曇りのち吹雪
少し冬型の気圧配置がゆるみ風がおさまった。たぶん,この状態は半日もつかもたないかであろう。北村Lの的確な判断によりこのチャンスをつかむべく凍りついたテントをたたみ登攀にかかった。
第四尾根下部

今回は登攀のスピードを高めるべく北村,石際と小林,鈴木の2パーティーに分け前後して登攀した。右の写真はたぶんカンテに出る前のピッチをリードする北村さん。登攀の内容はもう忘れてしまったが,4人ともトレーニングは十分であったので問題となるところはなかった。 しかし,さすがに滝谷。寒気は厳しく,ツルムを越えるころにはまた風が出始め体力の消耗を感じた。

「BカンテからCカンテへ向かう地点。夏ならば平均台のように歩いて登れる個所が,風は強く右側はスッパリ切れ落ちており緊張する。正面はツルム,左にピナクルが見える。」(北村記:岳人523号)
Bカンテ

Cカンテの登攀(鈴木晴人撮影)
Cカンテの登攀

同じくCカンテをリードする石際。まだ余裕。
Cカンテ
ツルムの登攀 ツルムをリードする北村。このころからまた風雪が強くなる。ツルムから懸垂下降し,最後のDカンテの登攀で石際が少々バテ気味で苦労していたので,北村さんがバトンタッチでナッツの人工で切り抜け登攀終了。稜線まで出て,風雪にたたかれながら最低コルまで歩きテントを張る。

スノーコル(6時間)ツルムのコル(2時間)縦走路(1時間)最低コル



1月2日吹雪
吹雪の中,涸沢岳西尾根から新穂高へ下山。下の写真は白出沢出合に着いたとき撮ったもので,右から北村L,鈴木,小林です。この登攀で石際は左手と足指に軽度の凍傷を負い,しばらくの間風呂に入るとき痛みに耐えながらこの山行を思い起こしたものでした。

最低コル(5時間)新穂高

参考装備 ダンロップ4人用テント・フライ,EPIボンベ6本(4本目まで使用),以下各パーティーボルト2本,ハーケン4枚,ロックス1セット
白出沢出合