ヨセミテ,ハーフドーム北西壁レギュラールート
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1990年8月21日〜24日
メンバー 小林亘,鈴木晴人,石際

8月20日
前日のトゥーラミメドウズで思いがけない降雪にあい,やっとの思いで壁から降りてきた僕たちは,疲れてはいたが車を走らせ,夜中の12時街道ぞいのホテルにもぐりこんだ。公園の火事のため閉鎖されていたゲートが今日正午に開く。アーチロックエントランスはヨセミテに入る観光客の車が連なっている。
アーチロックエントランス

この日は前日の疲れもありサニーサイドでブラブラしたり,エルキャピタンをぼけーと眺めたりして,なかなか明日からのハーフドーム行きの準備ができなかった。夕方になってからやっとレンジャーへの届出,買出し,情報収集をする。

ヨセミテのシンボルハーフドーム
ハーフドーム

12時ころまでかかってパッキングをする。僕らにはもう日数が残されていない。次の日,レンジャーに夜10時以降は静かにしろと叱られてしまった。
真夜中の準備

8月21日
シャトルバスでハッピーアイルズへ。長いトレールの始まり。
ロングハイク

ネバタフォール

ネバタフォール
トレイルはこの滝のすぐ上でマーセドリバーを渡っており,そのあたりはなだらかな岩場に潅木が点々と茂り,川の流れもあいまってさながら日本庭園のようである。時たま、このあたりで川遊びをしていて滝に落ちる事故があるらしく,英語,日本語,ハングル等で危険の看板が出ている。

6時間ほどの歩きで北西壁基部へ。東海岸から来たアメリカ人2人パーティーがFIX中。僕たちもとりあえず2ピッチFIX。取り付きでビバークする。思いがけず泉が湧いていてたっぷり水が使えた。食料は缶詰,ぺミカンというケーキ,スニッカーズなど。夜寝ていたら壁でビバーク中のパーティーが空き缶を2回も落とし肝をつぶした。

取り付きから見上げる北西壁。終了点のひさし(バイザー)が600m頭上に張り出しているのが見える。
北西壁

8月22日
昨日のFIXをユマール後,石際リード,小林フォロー,鈴木ラストのオーダーでスタートした。

4ピッチ目 5.11だが残置やストッパーでA1で抜ける。この上の5.9のクラックもそのままエイドしていたらフレンズが外れ,5m墜落してしまった。プレートアブミはクラックに勝手にジャミングしてくれ,とても使いにくい。
4ピッチ目エイド

スティープウォール

7ピッチ目 スローピングビバークからスティープウォールへ


スティープウォール(急な壁)の5.9クラックを快適に登る。右上にバイザーが見える。
クラック

9ピッチ目

9ピッチ目の4thのトラバースをする小林。このようなピッチでは荷上げシステムが使えず時間がかかる。ホールバックは18Lの水と3日分の食料,シュラフ!(メドウズの恐怖から過剰装備になってしまった)などでパンパンに膨れ上がり,単純な荷上げシステムで全体重をかけて引いてもびくともしない。手の皮がむけてしまった。
8ピッチ目はルートファインディング難しい。先行のアメリカ人が「ヘイ ジャパン!」と教えてくれた。彼らはセカンドが小さいパックを持つのみで軽装,やはりスピードが違った。

10ピッチ目振り子トラバース。この後のフェースがスラブっぽく下部では一番いやらしかった。テラスに着き,ここでビバークとする,時間があったので小林,鈴木が2ピッチFIX。
振り子

ルート図ではgood bivouacとなっているが一人がやっと横になれるくらいの幅の石のゴロゴロしたテラスで,一緒になったメキシコパーティーも「グッビッバ」を連発して笑っていた。シュラフまで持ってきたのでヨセミテの夜景と星空を眺めて快適なビバークであった。
オラ!アミーゴス(パチ)
グッドッビバーク

8月23日
17ピッチ目ビックサンデー下のダブルクラックをリードする小林。
今日はリード小林,フォロー鈴木,ラストは僕で楽であった。
17ピッチ目

レギュラールートのハイライト。ビッグサンデー上部のジグザグクラック。バイザーはすぐそこだ。このショットはR.ロビンスの「クリーンクライミング入門」にもあって感激して何枚も写真をとってしまった。(どっちかいうとW.ハーディングの「墜落の仕方教えます」のほうが好きだったが)
ちなみに,ビッグサンデーレッジは広く平らで昨夜の「グッビッバ」など問題にならないくらいよい所です。
リード後,荷上げする小林(上のテラスの赤い人)。ギアを回収しながらユマーリングする鈴木。ビッグウォールのシステムがよく分かるシーン。

20ピッチ目 スロットの上を登る
20ピッチ目

20ピッチ目をユマーリングする。500m下の基部まで見える。
ユマーリング

21ピッチ目「サンクスゴッドレッジを這って進む」小林。500m足もとがスッパリ切れ落ちた幅20〜30cmぐらいの岩棚を20mなさけない格好で這って進む。ラストの僕はザックを背負っていたので体が振られそうで,「ザイルアップ」の声がうわずってしまった。
サンクスゴッドレッジ

最上部トラバース等ですっきりしない壁を小林が粘り強くリードし,夜10時ついにハーフドーム頂上到着。垂直の世界から開放され,平らなところでぐっすり眠れる幸せ・・・
真夜中の頂上

8月24日
ヨセミテの朝。ハーフドームは足の丈夫な人なら誰でも登れる。
あのバイザーの上で。下はヨセミテ渓谷。向こうはエルキャピタン
バイザーの上で

ハーフドームの下り。太いワイヤー梯子が基部から頂上まで張ってある。ちょっと怖い。
ハーフドームラダー

ハッピーアイルズのバスストップでスニッカーズに食いつこうとしているハゼ
ハゼ

参考
11mm×50mロープ2本,9mm×50mロープ1本,シュリンゲ20本,カラビナ60枚,ハーケン(ナイフブレード2本,ロストアロー4本,ベビーアングル2本),ユマール3セット,ロックス2セット,シンストッパー1セット,フレキシブルフレンズ1セット,フレンズ2セット,プーリー1個,ボルトキット(6本),ナッツキー2本,ハンマー2本,ホールバック1個,ツエルト1個,ポリタン18L分(1人1日2L),コッヘル1個,コンロ,ボンベ1個


ビッグウオール・テクニカル・ノート  小林 亘 記

・ホールバック
 ロールマットを筒にしてその中に荷物を入れる。角は弱いので,底のほうにはシュラフ等クッションになるものを入れる。缶詰なんか入れたらイッパツで穴があくぞ!
・荷上げシステム(シングルプーリー単純つるべ式)
 プーリーはできるだけ高い位置にセットする。荷上げ動作はピッチよりもストロークをかせぐ様にする。トラバースの多いルート,傾斜の緩いルートでは必ずしもこのシステムは有効ではない。
・ユマーリング
 アブミはテープに限る!プレート式はクラックに挟まってしまうのだ。足も外れやすいぞ!両足ともアブミにのせる(1台のアブミに1本の足)のがベター。疲れにくいと思う。足がそろうようにアブミの1段違う段にのるのだ。ユマールの動作はストロークよりピッチをかせぐと楽で速い。傾斜が増すほどセルフビレーのループを短くし,アブミの下の方の段にのるのだ。
・カラビナ
 特大のもの(ビレー点でたくさんの結び目やカラビナをかけられる)変D型(三角型。ナッツ類の整理にgood)安全環付き(バックロープ用,ビレイ用等重要な結び目には不可欠)以上を3〜4枚含めるとよい。