――― あまがえる ――

 

小6の坊主がこの夏休みの自由研究でアマガエルの体色変化について実験している。アマガエルと言えば,家の庭に普通にいる身近な存在である。また,いる場所によって色が変わるということを知っている人は多いと思う。坊主は,たぶん,ちょちょっと実験して,簡単に結果をまとめて済ませようと思ったみたいだが,そうは問屋が卸さなかった。

 

いろんな色紙で包んだ水槽にアマガエルを入れておいても全然色が変わらないのである。カエルについて書かれたホームページなどを調べても,はっきり仕組みを説明するようなものは見つからなかったが,どうも,色ではなく光に反応して体色を変化させるらしい。赤や青などの囲いでは変化がなかったアマガエルが真っ黒の覆いを被せると,すぐ,どす黒い色に変化したのには感心した。あと,ベージュっぽい色にはどうやったらなるのか試行錯誤中である。光の他,湿度,気温,気分(ほんとに?)でも変化するらしいので奥が深いのである。

 

ヒキガエルやイモリなど両生類には皮膚に毒のあるものが多い。アマガエルにも皮膚毒があり,その粘液が目とか口に入るとかなり痛いらしい。カエルに触ったら手を洗いましょう。

 

前置きが長くなったが,これからが本題である。

 

以前,働いていた職場では,宿直があった。宿直といっても,2人1組で建物を管理するために泊まっているだけなので,やることがなく,好きな者が揃えば酒を飲むのが習慣になっていた。ペアは毎回変わるのであるが,楽しみなのが,Sさんとの泊まりであった。Sさんは私より年配で,酒が入るといろんな話をしてくれる。かなりやばいこともしてきたらしい人なのであった。

「石さんやで話すけど・・・」

と言いながら,その夜はアマガエルを呑んだ話をし始めた。

 

Sさんは,学校を出るとすぐ集団就職で故郷を離れ,工場に勤めた。若い工員は皆,寮に入ることになっていた。寮の大部屋には親分的な先輩がいて,新人は絶対服従。いろいろ用事を言いつけられる。そのなかに酒の肴を調達してくる仕事があった。

 

酒の肴とは,寮の裏の田んぼか原っぱで取ってきた「あまがえる」である。親分が今夜は飲むと言えば,仕事が終わった後,新人は1升瓶をもって裏へ行き,できるだけたくさん捕ってくる。さて宴会だ。昔の住込みの工員がそんなにいい酒を飲めるわけがない。エチルかメチルか,何が入っているやら分からない合成酒を,調達してきた「肴」で飲むのである。

 

1升瓶の小さい口から1匹づつ這い出してくる「肴」にちょいと塩をつけ,ぺろっと口に入れ,それを酒で流し込む。これを皆で回しながら楽しむのだ。親分は度量が大きくなくちゃあいけねぇ。当然,新人にもおすそ分けがまわってくる。

「ちょっと青臭いけど,それがまた旨いんやさ。」

レンジでチンしたコップ酒を啜りながら,Sさんはニヤッと笑った。

「誰にも言わんといてよ。石さんやで話すんやで・・・」

 

今から考えると,何匹もアマガエルを呑んで何もなかったはずがないと思うが,話を聞いた時は,その「青臭い」やつで酒を飲んでみたいような気がしたものだ。

 

 

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