―――― 栃の大木と岩魚の谷 ――――

 

○はじめに

これは,厳密な意味では実在する谷ではありません。これは実現したらうれしいと思う僕の夢です。
出合から少し登るとでかい滝があり,その下流ではきれいなアマゴが毛ばりに飛びつきます。その滝から上は落差はあるけど岩魚の遡上の障害になるような滝はなく,流域には栃,サワグルミ,上流にはブナの大木が林立し,山菜,きのこがそこそこ楽しめるくらいあって(ザックにいっぱいなんて欲張りなことは言いません),サル,カモシカ,熊の棲家があります。そういえば以前遡行したときルリカケスの哀れな骸が落ちていて,その羽を少々失敬してきて巻いた毛ばりはなぜか岩魚がよく食いつきました。
ここまでは現実の話。けれども大きい滝から上流には魚はいません。ここに岩魚の泳いでいるのを見るのが僕の夢なのです。ここには岩魚が住める環境があります。これからこの静かな小谷に岩魚を移植放流したいと思います。さて,僕の夢は実現するのでしょうか。

 

○第1回遡行 1993.7.17
大滝から下できれいなアマゴ2匹釣り上げる。大滝を巻き道から越えるとあたりがなくなる。しばらく我慢して竿を出してみるが魚類は生息していないと判断し納竿。

 

○第2回調査 2000.9.23
岩魚を移植放流するについては既に生息する岩魚,アマゴ等への影響を考えなければならない。魚種保存のためには滝の下流に生息する岩魚を持ち上げるのが一番であるが,大滝下の支流・本流では岩魚は生息するもののアマゴが優勢で有効な放流数まで確保することは難しい。そこで山越えした沢の岩魚(水系は同じで系統的にも同じと思われる)を移植する計画を思いついた。その場合,放流予定区域にアマゴ,岩魚が生息していると放流の意味がなくなるばかりでなく,既存の個体に重大な影響を及ぼすことになる。放流を実行するにあたりもう一度大滝上流の魚類の確認が必要と思われた。
小雨。9:30発。大滝下流ではアマゴのライズがあるが増水ぎみのため食いが浅く,掛けられず。大滝を越えるとあたりはなくなった。この時期,渕の開き出しには魚がついているはずである。しかし魚影は確認できず。やはり魚類は生息していないようだ。この数年の豪雨で谷は荒れた部分もある。後は竿をしまい山越え,相変わらずブナの大木がすばらしい。秋になったらナメコを採りにこよう。12:40頂上で小雨の中,妻が握ってくれたおにぎりをほおばる。稜線から笹をかき分け源流に下る。少し目論見が外れ源流魚止め上流におりてしまった。ここから釣下るのは難しい。雨も本降りになってきた。ちょっとした渕ですっと毛ばりが吸い込まれ20cmの岩魚を掛ける。そこから支流に入り何回か岩魚のライズがあるも満腹なのかUターンが続く。時間的にもカラータイマーが鳴り出した。14:30納竿。

       一匹だけ確保した岩魚♂を試験的に移植してみることにする。15:20頂上。まだ岩魚は元気。ここからブッシュの急斜面を下る。生かしビクではブッシュに引っかかり水がだんだんこぼれてしまう。そのうち水がなくなってしまった。岩魚にはかわいそうなことをしたと思いながらも。急斜面を急いで下る。15:40水が湧いている源頭に着く。もう10分以上経っているが水を入れてみると,最初はひっくり返っていた岩魚が元気になった。岩魚の生命力に驚く。16:00 標高850mまで下り栃の大木の下の小さな渕に岩魚を放流する。来年は仲間を連れてくるぞと岩魚に約束し,日も暮れかけた雨の原生林(二次林かも)の谷を林道へと下った。

 

次回はきのこ採りに来ます。

 

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