HOME



今,我が家の縁側の軒下には大きなアシナガバチの巣が ぶら下がっている。
例年,小さな巣が複数できることは あるが,今年は1つだけ。 直径は20cm近くあり,蜂の数も 恐ろしいくらいいる。
朝方や雨の日などはほとんど巣に 帰って来ているので,大きな蜂の塊のように見える。
蜂の種類も例年と違うようで,アシナガバチにしては大きく 黒っぽいやつである。
思うに,ほかの蜂はこの集団がいるために追い払われて しまったのかもしれない。

         2003.8.31撮影

物干し竿のすぐ上にいるので,家族が1mぐらいまで近づくことがよくある。
今のところ,とくに攻撃してくる様子もないので,そのままにしてある。
私としては,子供や奥さんが刺されると大変なので,駆除しようかとも 考えるのであるが,子供は「飛んできても動かんようにしとれば 行ってまう。」と怖がらない。
奥さんも「なにも しないんやで,ほかっておけばいい。」と言いながら,平気で洗濯物を干している。
なんでも,彼女の実家のおやじさんは戸口のすぐ上に作ったスズメ蜂の巣も そのままにしておいたそうである。

実は,私は蜂が怖い。
小さいころ何回か蜂に刺された。
ただ石垣の上に懸かっている巣を見ていただけで,追いかけられ,刺されたこともある。
洗濯をしたズボンの中に入っていた蜂に刺されたこともある。

一番恐ろしかったのは,大学生のころ,京都の北山の林道をサイクリング していて,スズメ蜂の攻撃を受けた時である。

ある年の8月,サイクリングクラブの仲間と林道を走り,ダートの峠を越えて 暫く下ったところで,林道脇の崖の下に湧き水を見つけた。
最初,私が顔を洗い,次に友人のKが顔を洗っていると,1匹の蜂が 頭の周りを威嚇するように飛んだ。
しばらくしてKが「わ〜助けて」と言いながらなにやら頭に止まったものを 必死で払っている。
私はタオルを持って駆けつけ,Kの頭に何匹も止まっているスズメ蜂を叩き落とした。
これがいっそう蜂を刺激したらしく,今度は私の方を攻撃してきた。 この時点で頭や首のあたりを何発か刺され,どうしようもないので走って 逃げた。
逃げる途中でも何発か刺された。
結局Kは2,3箇所刺されただけであり,助けに行って騒いだ私がひどく刺されることになった。
離れて観察すると,泉の真上5mぐらいの所に大きなスズメ蜂の巣があり, 巣の周りには興奮した蜂が何匹も飛び回っている。

自転車は崖の下に置いたままなので,私が代表して?雨具を着て取りに行った。
また足を刺された。

下山のコースは逃げたほうと反対であり,また崖の下を通らなければならない。
もう刺されるのはいやなので,しばらく様子をみることにする。
このころから,身体の異常に気がついた。

まず,刺されていない顔面や腕などが腫れてきた。
動悸が早くなり,冷や汗が出てくる。
ショックを起こしたのであった。

幸い,暫くして通りかかった山仕事の車に乗せてもらい,崖の下を通してもらう。
麓の村まで林道を下り,池の水で頭を冷やさせてもらった後, 最寄のJRの駅までなんとか走り,輪行して名古屋の下宿へ戻った。
その後3日間ほど熱と痛みで動けずに一人で寝ていた。

今から考えると,すぐ病院へ行くべきであった。
生命の危険もあったと思うが, あのころは,そんな頭がなく,我慢して済ませてしまった。
その後数年は体質が変わってしまったのか,皮膚が過敏になり,例えば雨に当たる だけでミミズ腫れができるようになった。

そんな経験から,野外活動をするためには蜂や毒蛇などの知識が必要なのが分かったので 「野外における危険な生物」(日本自然保護協会編 平凡社刊)などで勉強するように なった。
蜂毒で怖いのは,アナフィラキシーショックと言われるもので,それは2回目に 刺されたときに起きる。死亡する場合もあるらしい。
それからは,蜂に注意するようになった。

その後,十数年蜂に刺されていなかったが,1998年夏に沢登りをしていて,ついにスズメ蜂に 刺されてしまった。
高巻き後の懸垂下降でスズメバチの巣が支点のすぐ傍にあり,右手に蜂が止まったと思ったら すぐ刺した。大慌てで支点を回収し逃げて1箇所で済んだ。
右手はグローブのようになってしまったが 恐れていたショックはこなかった。

というわけで,私は蜂に刺された経験では人後におちないと思っているが, 蚊やアブと違ってなぜか蜂は憎めない。虫の中では好きといってもいいくらいである。
蜂は理由があって攻撃してくるだけであって, もしやられても,後でしかたがないと思えるのである。

また,食べるほうでも好きで,蜂の子は昔から食べている。
庭で取ったアシナガバチの子を子供といっしょに生で食べてみたこともある。
甘くておいしかった。
今,軒先に懸かっている巣も落として食べたいなと,ふと思うこともあるが, 毎日眺めていると情が移るのか,秋になって新女王蜂たちが出て行くまでそっとしておいてやろうと思っている。


9月15日
うちのアシナガバチたちは巣からほとんど出て行ってしまいました。
そして,どこへ行ったかと言うと・・・
玄関の軒下にすごい数がかたまって,蜂の団子状態になっています。
たまに塊になって落ちてくるので下を通るときは要注意です。
昨日はセールスマンが来たので
「ちょっと上を見てください」
と言ったら,逃げていきました。
蜂も役に立っています。

          2003.9.13撮影 まだ集まり始めたところ

岐阜大学農学部昆虫学教室の土田先生に我が家の蜂のことについてお尋ねしたところ,詳しく教えていただきました。

以下,土田先生からメールいただいた内容を転記します。

セグロアシナガバチです。
秋になりますと、オスと次世代の女王蜂の羽化が始まります。新女王蜂は働かずに、巣穴に頭を入れた状態でぶらぶらしています。オスは触角がカールしており、顔面が白っぽく(ガイコツみたいに見えます)、基本的に働きません。
次第に巣から離れ10月になりますと越冬場所の近くで交尾をします。基本的にこの時期のアシナガバチは攻撃性が少なく安全です。といっても、手でつかむようなことはできません。新女王蜂は攻撃性が極めて弱く、向かってくることはまずありません。オスは針がありませんので、刺されません。握っても大丈夫です。
そっとしておいてください。多分、来年も近くに巣を作ると思うのですが、重要な捕食者です。 セグロアシナガバチのこのサイズの巣なら、これまでに6000から8000匹のイモムシを 捕食したはずです。計算上は10アール程度のキャベツ畑のアオムシを全て食い尽くし てくれるはずです。

ということで,ますます愛着が湧き,玄関を通るたびに観察しています。
たまに外から蜂がやってきて集団に加わると,大変な騒ぎになって,蜂の塊が落ちてくるのが恐いですが,これは生き残りのワーカー(働き蜂)が餌を運んでくるのだそうです。

来年はもうちょっと隅っこのほうで巣を作ってくれないかなと思います。

10月3日
我が家の蜂は,うちの奥さんによってついに駆除されてしまいました。

町内の体育委員の方が玄関で立ち話をされている時に, なぜか刺したらしいのです。(状況は分かりません)
やはり家を管理する者に責任がありますので,駆除はしかたがないことだと思います。
けど,ちょっと寂しかった。
最近,数が減ってきていたので,もうすぐどこかへ冬眠しに行ってしまうと思っていたのですが…