―― 川棚温泉 ――

 

博多から快速で下関へ向かう。
八幡のあたりで、工場の巨大なプラント群に目を奪われる。
天に聳える煙突と、怪物のはらわたようなパイプの集合体。
何を作るプラントなのか素人にはわからない。
これだけ大きいと畏敬の念に近い感情が湧いてくる。
人間が作ったということが感覚でイメージできないのである。

 

下関で途中下車し、下関漁港へ行ってみる。
市場の売店で竹輪とビールを買う。
漁港の従業者休憩ロビーのカウンターに座りちびちび飲む。
市場で働くおじちゃん、おばちゃんがしゃべる魚の話を聞きながら、ぼんやり港を見ている。
屋根の雪が解けて、ときおりどさっと落ちてくる。

 

鈍行で川棚温泉に着く。
温泉までの道ははっきり分からない。
とりあえず駅前の道を歩くことにする。
暖かいまっすぐな道を歩いていく。
遠くに山が見える。
あの麓ならばかなりの距離だなと思う。

 

ひとけのない温泉には、何軒かスナックがある。
昼間見るこれらの看板に場違いな感じを受ける。
「呪帝夢」とあるのは「ジュテーム」であろうか。

 

食堂で瓦そばというものを食べる。
そばと言っても、焼き肉に近いものである。
池のある裏庭を見ながら、またビールを飲む。
軒で切り取られた青い空に雲がゆっくり流れていくのを見る。

 

温泉街の一番奥に妙青寺という禅寺がある。
山門脇には大きな楠があり、その横に種田山頭火の句碑が立っている。
山頭火の略年表に「昭和15年、松山の一草庵で酔死」とある。

 

雪舟の設計による庭園の裏に廻り、裏山に登ってみる。
道には雪が残り、木に積もった雪が解けて落ちてくる。
なぜかお稲荷さんが奉ってあり、娘の合格祈願をして戻る。

 

山頭火が滞在した山頭園という旅館に入る。
客は私一人のようである。
ぬるめの温泉にゆっくり入る。

部屋に戻り、居眠りをしながら本を読む。

まだ外は明るい。
旅館の子供が裏庭で縄跳びをしている声が聞こえる。
2回目温泉に入る。
6時になったとみえ裏の妙青寺の鐘が鳴る。

 

別の部屋に夕食を用意してもらい、一人で銚子を傾けながら、海のものを味わう。

もう陽が落ちた。

今夜は1本で止めておこう。

 

平成15年2月6日

 

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