―― 平成15年度東海ブロック雪崩講習会 ――
平成16年1月17日,18日におんたけスキー場で開催された労山東海ブロック雪崩講習会に参加した。
当会からは石際,山口が参加した。概要と印象に残ったポイントのみ報告する。
1日目
○雪庇の断面観察
ゴンドラ終点から田の原へ降りた北東斜面の雪庇に,ロープで確保のうえピットを掘り,断面を観察した。
断面を刷毛でブラッシングすると,雪庇内の複雑な重層構造がきれいに現れる。
断面は単純なバームクーヘン状ではなく,絶えず断裂,巻き込みなどを繰り返し,三角形の空洞がいくつも観察された。
どのように形成されたのか想像できないような縦の層が入りこんでいたりする。非常に不安定なものであることがよく分かる。
○主任講師である信州大学農学部教授 新田先生の講義
*雪は状態として降雪,積雪に分けることができる。
積雪は,降雪が地吹雪(風)または雪崩(重力)によって運ばれ積もったもの。ほとんどの積雪は降ってからなんらかの力で動かされたもの。
*0〜−270℃が雪(氷)の温度帯。−5〜−10℃というのは氷にとっては超高温の世界と言える。
粘土を窯で焼いているのと同じように,分子が活発に動き結合する→焼結!
粘土をよくこねて焼くと硬い陶器ができる。
雪崩れた雪がすぐに締まって硬くなるのは,雪の結晶がこねられ,細かく均一になり,粘土をこねて焼くのと同じことが起こるから。
*積雪は内部の温度と湿度によって変化する。
しまり雪からも霜ざらめ雪はできる。完全に空間がなくなっているわけではないから。
日中よい天気で,積雪が暖められ(湿度も上がり),夜放射冷却が起こると霜ざらめ雪ができる。クラストするだけではない。
霜ざらめができやすいのは積雪表面近く,及び地表近く。(2日目の観察結果参照)
*あられ→ボールベアリング→滑りやすい
粒付きの雪の結晶→摩擦が大きく,滑りにくい
広幅六花(ひろはばろっか)→滑りやすい
○休憩後,弱層テストの実習
(シャベルぽんぽんテスト)
シャベルテストの際,掘り出した雪柱の頭にシャベルのブレードを被せ,手で叩く。
分かりにくい新雪内の弱層がきれいに飛び出してくる。
(ハンドテスト)
直径は30cm,鉛直に手で掘れる深さまで掘る(他のテキストでは踏み込んだ深さから下70cmとなっていた)
(雪の観察)
*堅さ
拳(新雪),4本指,1本指(しまり雪),鉛筆,ナイフ(氷板)と堅さの変わった部分の雪の種類を観察する。
*ルーペで観察
ざらめ→角が丸い
しもざらめ→角張っている。キラキラ光る。
こしもざらめ→粒は小さく,結晶は不明瞭。角張っている。キラキラ光る。
○ゾンデーレンの簡単な実習
幅は40cm
夕食後新田先生の講話
*積雪内に複数の弱層があると危険
*雪崩の見通し角(雪崩が到達する惧れのある目安)は通常,表層雪崩では18°,全層では21°といわれているが,例外もある。
12°まで届くこともあり。
*雪崩ビデオ視聴。
すでに何本もトラックがあるパウダー斜面で,スキーヤーの与えた刺激で突然,面発生表層雪崩が起きたのは衝撃的だった。
*雪崩の説明では弱層のみが強調されているが,実は上載積雪の性質が最も重要なファクターである。
積雪は締まりながら,大きく動いている。弱層は変わらない(動かない)部分(弱い部分でもある)。
その接面が突っ張ってきて,耐えられなくなり崩れる。重力だけの作用ではないということか。
2日目
深さ1.6m,幅6mのピットを掘り積雪断面観察。
堅さ,刷毛で撫でる,指で左右にほじくる→弱層になりそうな所が分かる。実際はテストしてみないと分からない。
(雪温計測)
時間9時40分,標高1700m,外気温-10℃,晴,前夜晴,積雪160cm
○計測データdata.gif
(注意及び考察)
*デジタル雪温計で計測。ピット作成後,断面は急速に温度変化(今回の場合は冷却)するため,実際の雪温とは差が生じる。
-140cm〜-160cmの温度傾斜が逆転しているのもこの影響か?
*深度50cmの地面内温度は通常,年間平均気温と同じ。標高1700mでは5℃。御嶽森林限界2600mでは0℃
*外気温が-10℃なのに積雪表面では-17℃という結果には驚いた。これは夜間の放射冷却のためである。
放射冷却とは物体から遠赤外線が放射されるように宇宙に向かって熱エネルギーを放出する現象。曇りの夜は反射でエネルギーが保存されるので冷えにくい。
冬山の朝,非常に足が冷えるのは,積雪面が気温よりかなり冷えているからである。
*しもざらめ雪が生ずる積雪内温度傾斜(1mあたりの温度変化)は12〜15℃が目安。
上のデータでは積雪表面から-20cmまでの温度傾斜がなんと46℃/mであり,しもざらめ雪が発生する可能性がある。
地表付近も温度傾斜が大きくなっていることが分かる。
なお,温度傾斜が小さい場合でも,湿度等の条件がそろった場合は長時間かけて,しもざらめ雪は生じるので注意。
○埋没体験
深さ1.5mほどのピットを作成し,上半身が入る横穴を掘る。
シートを敷いたうえで横向きに寝た姿勢(腹部を圧迫しないため)で横穴に上半身を入れ,ブロックで肩付近の隙間をふさぐ。
無線を持たせ,状況を交信しながら実施する。雪を掛ける。1mぐらい。
コールをし合ってみる。ゾンデで足のあたりを突いてみて,感触を確認する。
埋没すると体を動かすことは不可能。埋没直後から急速に体温が下がることが分かる。
実際の埋没では15分ぐらいすると,呼吸によって結露した口の周りの雪が凍り,空気を通さない氷の膜ができ,窒息により死亡する。
○救助シミュレーション
講師陣により編成されたチームにより,実際の山行でパーティーの一人が雪崩で埋没したという設定でセルフレスキューのデモを行った。
(ポイント)
リーダーの指示。安全な場所の確保。ゾンデの有効使用。呼吸確保。保温の重要性(埋没者表面の雪はツエルトで覆ってから除去する)
搬出の難しさ。
○ビーコンによる探索練習
デジタルビーコンは埋没者に接近するスピードが速い。アナログビーコンは2mレンジでの十字法でのピンポイント探索には使いやすい。
いずれにしても電波誘導法プラス十字法,ゾンデ併用でそんなに難しいものではない。
ただし,複数埋没者がいるときは,発見済みの埋没者のビーコンをOFFにする方法を確認しておく必要を感じた。
いちいちOFFにしなくても複数のビーコンを探索する方法もあるらしいが・・・
以上,何年かぶりに雪崩講習会に参加したが,定期的な訓練が必要であると感じた。
(山口さんのコメント)
ピットの雪温測定結果ですが,新田先生に質問したところ-160cmの雪温は測定誤差との返事でした。
正確に測定すれば-140cmの温度より高くなっていたでしょう。
(その場合は地表近くの温度傾斜はそれほど大きくならない)
ビーコンについては複雑なので短い言葉では言うことができませんが,私の2台のビーコンを比較すると距離表示の出るデジタルの方がピンポイントをしやすいと感じました。
また,特に深く埋まった場合と複数の場合はより多くの練習をしていないと難しくなると思います。