剣岳八峰マイナーピーク東面スラブ〜チンネ左下カンテ〜左稜線
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1985年8月10日〜15日
関岡 守,石際 淳

8月11日
 お昼に剣沢に着き,水場の近くにと決めてあった場所のよいテント場を探す。
 風で飛んでいかないようにと石でテントを固定し,ピッケルで溝を掘り,完璧な設営。
 富山で買った行動食のロッテリアのパイを食べていると眠くなる。明日のことを考え,今日は夕食を早めにとって,早々にシュラフカバーの中にもぐり込む。

8月12日
 3時30分起床。雨が降っていたが,出発時には止む。
 真砂沢山荘を過ぎた三ノ沢口に1時間ほどで着く。ここで北川さんと別れる。マイナーピーク東面スラブを登るために,ドッペルで行くよりつるべ式のほうがはるかに早いためである。北川さんとは八峰の5・6のコル,又は三ノ窓にて待ち合わせをする。

 三ノ沢を詰めていくと左側に広大なスラブが見えてくる。先行1パーティーを途中で抜いた他は誰も取り付いていない。取り付きでザイルを出した時,雨が降り出した。雨具を着け,ザイルを結んだ時はドシャ降りになった。時間がないので,止むか止まないかの天候の変化を待つことができず,石際トップで登り出す。

 水が滝のように岩の上を流れているので,雨具は関係なく腕を伝って脇の下に流れ,冷たい。3ピッチ登ってからコンテニュアスでどんどん高度を稼ぐ。核心部でスタカットに切り替える。岩が逆層で,下から推測していた状況と違っていた。まるで屋根の瓦を下から見ているみたい。3ピッチで終了。全ピッチ数は途中,コンテニュアスがあるため分からない。東面スラブルート図

二本クラック

 八峰の2峰を少し過ぎた所の窪みで昼食の弁当を食べる。ヘルメットを伝って雨水が弁当箱の中に降ってくる。水を見ながら今日のことは忘れないだろうと,飯を割り箸で口に運ぶ。14時近かった。
荷物の分担で北川さんが食糧,私達がコンロ,ツエルト,コッヘルと分けていたので,私(関岡)たちの食糧は弁当しか持っていなかった。したがって念のため,お互いの弁当を少しづつ残すことにする。

 アップザイレンで5・6のコルに着くが誰もいない。待つこともなく行く。6峰のコルもまたアップザイレン。

 7峰の下降路は迷路になっていた。あっちこっちと踏み跡があり,どれを行ってよいのか判らず三ノ窓側の踏み跡を行くと,アップザイレンの支点があり,おかしいと思って登り返して別の踏み跡を行くと,またアップザイレンの支点があり,そこから踏み跡を発見する。自信をもってそこを行くと登りになっていて,はじめの分かれた踏み跡に戻ってきていた。

 何が何だか判らなくなって,長次郎側の踏み跡を行くことにする。降りていくと,長次郎の右俣ヘ出てしまい,時間もないことだし,右俣を詰めることにする。上部はガスが出ていて何も見えず,どこに向かって行けばよいのか判らず,ただ単に上へ上へと向かって雪渓を登って行く。

 1時間登って雪渓がなくなり,岩壁となり上部はガスで見えないし,今日は諦め,ズブ濡れのビバークとなる。19時30分ごろであった。雪渓で白湯を作って残りの弁当を食べ,21時30分頃眠る。

 北川さんのことだ,三ノ窓の岩小屋か,食糧をチラつかせて他のテントに潜り込んでいることだろう。

8月13日
 5時起床。自分たちの場所を確認すると,稜線まであと100mの所まで来ていた。

 ガレ場を登って稜線に出て,一路三ノ窓に向かう。三ノ窓に着き,コールをかけるが,返って来ない。諦めて,三ノ窓雪渓を下ってBCに戻ろうかと話していた時,北川さんを発見。私たちは三ノ窓の岩小屋を知らないため,北川さんとは反対に,池ノ谷側でコールをかけていたのだった。この時,ジフィーズの美味かったこと。

 今日は剣尾根に行く予定であったが,時間的にも無理なので,チンネ登攀に切り替える。左稜線に行きたかったが,数多くのパーティーが取り付いているため,左下カンテを登って途中から左稜線に出て登るという変則登攀をすることに決める。一番面白い所をつまみ喰いの形となる。

 左下カンテ取付点に行こうとガレ場を登っていると,なにやら鳥が飛んでいるような羽音がすると思ってから0.5秒。石際の後ろ1mの所に頭大の石が落ちた。

 左下カンテ1ピッチ目のA1をA0で時間の短縮をはかり,つるべ式でどんどん高度を稼ぐ。途中,私が大きな石を抱いてしまい,運良く止まってくれて,膝で石を固定して身体を安定させてから石は割れ,半分下に落ちていった。幸いにも下には誰もいなかった。

 左稜線に移って核心部で順番待ちとなる。先行者はA1の所をフリーで登っていた。私たちも挑戦。石際は鮮やかな身のこなしで,するりとフリーで登っていた。私もセカンドという身の軽さもあったが,あまり難しいとは思わなかった。北川さんと池ノ谷で合流して,稜線を伝って本峰に1時間で着く。

 チンネのルート上は,岩は硬く快適だが,少しでもルートから外れると,浮石が多い所だった。稜線はガレが多く高度感もあり,初心者や子供などには危険ではないかと思われた。剣本峰から剣沢BCまで2時間で着く。

 夜,夏合宿の打ち上げで,ビール,チューハイ,焼肉etc.・・・と豪華版。昨夜とは天国と地獄。酔いも回って,相変わらずのバカ話に花が咲く。

8月14日
 私は,大日岳へと縦走する予定だったが,石際と二人で池の平経由の阿曽原へ行くことにする。7時出発。池の平に11時に着き,私はビール片手に八峰の写真を撮る。

 阿曽に14時45分に着き,時刻表により17時57分欅平発の終電車が_あることを知り,水平道路を欅平へ向かう。水平道路に登りがあることを知らなかったので,水,ビール,コーヒーなど水分を十分にとってしまい,出始めの20分の登りは地獄であった。水平道路を3時間18分で抜け,欅平に着く。最終のトロッコ電車に乗り,山岳地帯を後に夏合宿も無事終わった。

(記録,関岡守)