「プロジェクトK」北ノ俣岳〜黒部源流横断〜扇沢
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2002.5.3〜7

「プロジェクトK」北ノ俣岳〜黒部源流横断〜扇沢

メンバー石際淳,加藤毅,河島健蔵

プロジェクトK行程

 最近は自動車利用での山行が多く,新人のころ合宿が終わって,列車で酒を飲みながらのんびり帰ったあの気分をまた味わいたくなり,北アルプス黒部川源流を岐阜県側から長野県側へ横断する計画を思いついた。

 計画のコンセプトは美しいラインで黒部源流を駆け抜けること(記録狙いのちんけな寄り道はしない),滑りは犠牲にしないこと(ちなみにメンバーは3人ともカービングのゲレンデ板)である。今シーズンの寡雪と雨の降りそうな天気予報で完走の確立は30%ぐらいと考えていたが,晴れ間を突いて4日と3時間ほど(実質3日と3時間)で歩き(滑り)通すことができた。

 計画段階でのポイントは @薬師沢出合いの黒部川に架かる吊橋の状況と A記録のない南沢の滑降と思われた。@については薬師沢小屋の管理人の方に電話で確認したところ,冬期も撤去はしないが,対岸が急な雪壁になっており渡れる状況ではないとのことであった。Aについては地形図からみて中間に2ヶ所滝場がありそうだと思われたが,南沢の記録を調べるうち江戸時代の加賀前田藩「黒部奥山廻り」のルートに南沢が使われていたことを知り,雪がなくても最悪歩いて下降できると判断した。

 結果は行動概要を参照されたいが,上記の他,針ノ木谷が寡雪と融雪による増水で沢登りの状況になってしまったのは想定外であった。

 加藤の体力と登山技術,河島のポジティブな思考(これにはずいぶん助けられた)と確実なスキー技術がうまくかみあってよいチーム行動ができ完走できたと思う。

 肝心の滑りに関しては北ノ俣岳東面,東沢,南沢,針ノ木雪渓と満足のいくものであった。

(行動概要)

5月3日 晴

薬師岳へ単独で入る佐竹(岐阜ケルン)の車に便乗し,飛越トンネルの神岡新道登山口から歩き始める。富山の大瀧氏の情報通り尾根には雪がなく,1800m地点からやっとシールに替える。薬師岳に向かうスキーヤーが多い。北ノ俣の大斜面は最近白山前衛の中級山岳しか登っていなかったので,スケールに圧倒された。

飛越トンネル前で準備中


寺地山避難小屋の前で休憩。正面は北ノ俣の大斜面


北ノ俣のピークで佐竹と別れ,赤木平へ一滑り。あまりにいい斜面なので,荷物が重いのにカービングの大回りをしてみたら脚に来た。


我々3人がゴマ粒のように見える


シールを着け赤木平の大地を乗越す。


黒部川目掛けて今度は省エネを心がけ中廻りで快適に滑る。右手は樹林が濃いので,左手の沢状が滑りやすい。下部の緩斜面は雨の流れた溝が深く,あまり快適ではない。


薬師沢出合いは急斜面で落ち込んでおり,薬師沢小屋へはスキーを外し下る。黒部川に架かる吊橋は,雪崩か落石かでアンカーの1つが抜けて傾き,対岸は急な雪壁になっていて下には深い淵が青々としていて,一目見たとき3人には諦めのムードが漂った。


石際が空身で渡り,対岸の雪壁もルート工作できると判断し,ロープを15mFIXする。口には出さなかったが心の中で「ファイト1発」と叫んでいた。 雲ノ平への急登はスキーを担ぎつぼ足で登る。加藤はテント一式も担いでいるのに最後まで先頭でステップを切ってくれた。斜面が急に緩やかになり雲ノ平の一角に出た。ここを今日のねぐらとする。黒部対岸には今日滑った北ノ俣の斜面と太郎から薬師の眺めが素晴らしい。

夜半から雨となる。

飛越トンネル7:00 寺地山10:00 北ノ俣岳13:30 薬師沢小屋14:30 H2360m台地17:00

5月4日 雨

沈殿,ラジオを聞いてごろごろする。明日は晴れる天気予報である。

5月5日 雨のち晴 風強し

昨日の分を取り戻そうと3時に起きてみると,まだ雨が降っている。

しかたなく雨の中雨具を着て出発。石際のゴザテックス(ゴザのように雨を通す)のパンツとマクロテックス(通気穴がすでにマクロ)の雨具ではすぐにびしょ濡れである。雲ノ平は目標物のない台地状で,ガスの中,地図とコンパスとにらめっこしながら通過する。晴れていれば素晴らしい眺めであろうと思うとちょっと残念である。


祖父岳の手前


祖父岳を過ぎ水晶への登りにかかる頃ガスが晴れ,今度は風が強くなってきた。
稜線には雪がない。


水晶小屋から東沢へ滑降する。立山の真砂沢を1.5倍にしたようなスケールと30°前後の快適な斜面に大満足。

東沢の中間部


2250mあたりで早くも雪が割れ水流が顔を出す。右岸の樹林帯の間を縫うように滑り,2000m地点から三ツ岳へ上がる沢をシールで登る。
下部は落石が多く気を使う。標高差800mほどであるが,結構しんどい。最後,少し這松を漕いで稜線に上がる。


予定では三ツ岳から西斜面をスキートラバースして烏帽子小屋に入るつもりであったが,稜線には雪がなく,強風に煽られながら烏帽子小屋まで歩く。
 快適な小屋で明日の英気を養った。


テン場発5:10 祖父岳7:40 水晶小屋10:00 東沢谷H2050m11:10 三ツ岳15:00 烏帽子小屋16:00

5月6日 晴

最後まで不安があった南沢滑降の日である。

昨夜は放射冷却のためハードバーンになっている。南沢岳直下まで歩き雪が緩むのを待つ。1時間ほど待機して,南沢乗越に日が当たってきたので,南沢岳の雪壁をアイゼン,ピッケルで登り頂上に移動する。

頂上周辺は這松が出ているので1段下がった斜面から南沢の源頭(源流で二股になっており,その右股)に滑り込む。右俣はようやく日が入り始めたところで35°程度の素晴らしい斜面が谷底まで続く。

石際(前),河島(後)でデュエットで南沢に飛び込む。


こんないい谷なら途中で滑降不能となり引き返すことになっても価値がある。おまけにこの谷の中は北斜面のため雪も多くかなり下部まで雪が詰まっていそうだ。


2200mあたりのゴルジュは雪が完全に詰まっていた。


しばらくのんびりした斜面が続く。


1850mのゴルジュ入口(出口?)で雪が割れ,ついに滝が出た。


地形図で判断し左の小尾根をアイゼン,ピッケルで乗越すと枝沢はいい斜面になっており,スキーで本流に戻れる。ゴルジュ出口(入口?)には25mはある立派な大滝が水しぶきを上げていた。

その後は落石や枝等で少し汚いが,滑るには問題なく雪が繋がっており,下流で10m滝を左岸から巻いたほかは針ノ木谷まで滑降することができた。

緊張から開放され3人の顔もにこにこである。

ここからは針ノ木谷を遡行する。登山道は不明瞭で利用を諦め,沢通しに徒渉(膝上まで),高巻きを交え,蓮華岳への沢との出合いまで進む。


黒部に徒渉はつきものだ。


予想ではここからは雪が詰まっているはずであったが,ゴルジュにはスノーブリッジのみで,おまけに融雪のための増水で,へつり,徒渉(ロープで要確保)が連続し,沢に慣れた者には,ちょっときついアルバイト程度のことであるが,経験のない河島にはすごいストレスであったようだ。

ようやく滝場を抜け,針ノ木小屋が見えるあたりで,今の行動は諦め,テントを張った。

烏帽子小屋5:40 南沢岳直下6:55(待機) 南沢源頭8:00 南沢出合10:20 針ノ木谷奥の三股14:35 H2050m16:00

5月7日 雨

なんと最終日も雨。小屋で何か美味いもんを食べるのを楽しみに最後の急斜面を登る。小屋に着いてみると,ガーン。連休がすんで営業を休止していたのであった。

誰もいない小雨の針ノ木雪渓をぶっ飛ばし,下部のグシャグシャ斜面も蹴散らしながら堰堤へ。林道を歩き少し寂しい扇沢駅に着いた。駅でおやきと清酒を買い込み車中の人となった。

やっぱ列車は和みます。


テン場発6:10 針ノ木峠7:30 扇沢駅8:40