錫杖岳烏帽子岩前衛フェース「注文の多い料理店」ルート開拓記

 

以下は「岩と雪」に掲載された記録である。晴ちゃんは,このルートのことを話すとき,「たなぼた」ルートなどと言うが,私は前年の冬,左方カンテを登攀し,このラインを懸垂下降して,ここにルートがあるべきだと思った。

 

そして次の年の秋,開拓の準備をし,この壁に向かった。しかし,錫杖には発表されていなくても試登のラインは多くあり,オリジナルラインが引けるかどうかは確信がなかった。北沢大滝の下まで来てみると,どこかで見たことがある年配のクライマーが女性のパートナーを連れて中央稜に取り付くところだった。その方と今回の開拓の話をしたところ,なんと,這松山岳会の鳥居氏であり,私達が狙っていたラインのすぐ右を人工登攀するルートを開拓されたことを知った。そのルートについて色々情報をいただき,最悪フリー化でもいいつもりで取り付いた。

 

這松山岳会ルートはクラックを無視した人工登攀ルートであったので,結果的には1ピッチ目及び3ピッチ目の出だしを除きオリジナルラインを引くことができた。初登時は,フレンズ#3.5までしか携行しなかったので,ワイド部分はハーケンを打つかランナウト。キャメ#4なんて特殊な装備だと思っていた。当時から開拓の際は残置しないのが春日井のやりかたであったので,ビレーアンカーも含めオリジナルライン上にセットしたギアは全て回収した。その後,登ってみたことはないが,話を聞いたところによると,クラックの脇にボルトが打たれたり,汚らしいお助けスリングが垂れたりと情けない状態になっているらしい。後から登るクライマーのため,せめて自分がセットしたものくらいは回収してほしいものである。

 

注目すべきは「岩と雪の会こぶし」の東川氏らによるオール・パッシブ・ナッツによるクライミングである。このように登れるのであるから,不必要なボルト,ハーケンは抜いてもいいかなと考えている。(平成16年8月13日記)

 

1989.10.22  石際 淳  鈴木晴人(現 佐原晴人)

 

錫杖前衛フェースの人気ルート「左方カンテ」より左方にあり,クリヤ谷からは蔭になって見えないせいか,北沢フランケに目をつけるクライマーは少ない。北沢大滝の右手にスッパリと切れ落ちているこの壁は岩は硬く,傾斜も強く,錫杖にはあまりない継続するクラックシステムがあり,北沢フェースやV字壁と並ぶ内容をもつラインが引ける可能性がある。

 

今回はオリジナルラインを引くつもりで取り付いたが,結果的には這松山岳ルートと一部重なりながら,同ルートが避けてボルトラダ―で越えている核心部のハングに切れ込んだクラックをつないでオールフリーのラインを引くことができた。フェースクライム,ジャミング,レイバックと多様なクライミングが楽しめるルートになった。以下登攀の概略。

 

1ピッチ目,草付の少々あるのっけから傾斜の強いフェースを登り,大テラスへ。

 

2ピッチ目,テラスから左にトラバースして左上する草の付いたクラックを登るが,途中,左のフェースに出るところがあり少し悪い。既に高度感がかなりある。クラックはバンド状になり,なおも左上していくと行き止まりになるので,フェースを右上し枯れ木テラスへ。

 

3ピッチ目,這松山岳会ルートはハング右のフェースをボルトラダ―で直上している。フェース大好きの鈴木がボルトラダーのフリー化を試みるが4本目のボルトまでで前傾ぎみになりホールドがなくなったのであきらめ左へ5.10(再登者のグレーディングでは5.9)のトラバースでクラックに入る。クラックはフレンズ3半もパカパカのOWであったが豪快にレイバックでハングを越える。その上もクラックが続きジャミングやらレイバックやら楽しみながらお地蔵テラスへ。

 

4ピッチ目,この上のハングに切れ込むクラックもOWで,石際はノープロのレイバックで突っ込む度胸がなく肩までクラックにもぐり込みクラック内のリスにナイフブレードを叩き込むという重労働の末,苦労して越えた。鈴木はあっさりレイバックできて易しいと言う。その上もOWが続くが傾斜がなく容易であり楽しいところである。またもハングに頭を押さえられたところを右にトラバースしてボルトテラスへ。

 

5ピッチ目,草が付いているがジャミングがきまるフィンガークラックからプロテクションのない気持ちのいいフェースを登ると「左方カンテ」の終了点に出る。下降は40m3回の懸垂で取り付きへ。

 

使用ギア

フレンズ#1〜3.5,ロックス1セット,ナイフブレード数本

這松山岳会ルートにはハーケン,ボルトの残置があるが古くて信用できない。ルート上にはクラックが多くほとんどナッツでプロテクションが取れハーケンもよく効く。オリジナルライン上には残置なし。

 

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