――2本あったジェードルルート――
日本登山大系を始め錫杖の岩場のガイドには北沢フェースの左に派生するルートとしてジェードルルートが紹介されており,ルート図においても北沢フェース扇ハング上から別れるもの,左方カンテから入るものとあり,その記述においてもはっきりせず,自分を含めクライマーのあいだで混乱,誤解を招いてきた。
1988年金沢クライマーズクラブの倉西孝氏ら(第二登は1週間後,春日井山岳会北村・小林)によってフリー化の記録が発表され,5.10bc,5.10abの2ピッチからなるジェードルは本番のフリークライミングを目指すクライマーのよい目標となったが,上記の混乱からジェードルに入れず敗退するパーティーの話を聞くことがあった。
1990年私は三菱自工山岳部の東田良治とフリー化されたジェードルをトレースし,ガイド等の記述に疑問を感じながらも,特に調査しなかったのであるが,本年になりアルパインクライミングメーリングリストで東海山岳会の井土氏から情報をいただき,北沢フェースルートと左方カンテの間には2本ジェードルが存在し,それぞれルートがあり,従来それが混同されてきたことを知った。
今回,2本あるジェードルのうち右のラインを登り,位置関係がはっきり確認できたのでここに紹介したい。2本のジェードルは構成も違い,ルートの性格も違うが,どちらも登り応えのあるいいルートである。内容については行動概要及びルート図を参照されたい。
★錫杖岳烏帽子岩前衛フェース北沢フェース左(ジェードル)ルート
2001年10月21日
石際 淳,加藤 毅,前田隆成(岐阜ケルン山岳会)
2週連続の錫杖である。今回も下部は加藤リード。
1ピッチ目。北沢フェースの取り付きがはっきりせず,クライムダウンしたりして,結局濡れた凹角を左上する。
2ピッチ目。次第に傾斜が強くなる草付き混じりの悪いフェース。
3ピッチ目。草付きを左上し,北沢フェースと白壁の間の大凹角下へ。
4ピッチ目。石際にリード交代。凹角には左壁に新品のボルトラダーがあり,すごく快適そう。ハンド〜フィンガークラックをできるだけフリーで上がり,苦しくなったのでアブミに乗る。やさしい人工で,チムニーに入るとピンがなくなる。左壁の広いクラックを登り,扇岩テラスへ。このピッチはフリー化できそう。
5ピッチ目。下部は思っていたボルトラダーではなく,スラブをフリーで行く。ピンが少なく少し緊張する。ボルトラダーに入ると快適人工。ピンは古いが錫杖らしくなくしっかり打ってあるので安心である。
6ピッチ目。恐ろしいハンギングビレーの後,高度感満点のハング越え。ハング上からフリーでトラバースして北沢フェースと合流。
7ピッチ目。汚い凹角からチムニー。右壁に移るところがちょっと微妙なバランス。スラブを少し登りブッシュ帯に入り終了。後はブッシュをこいでP2に出る。
槍見5:40 取付8:30 終了15:30
P2発16:20 烏帽子岩西肩経由クリヤ谷17:00
槍見18:00
古いものであるがフリー化されたほうのジェードルルートの記録も参考までに附記する。
★錫杖岳烏帽子岩前衛フェース「ジェードルルート」〜烏帽子岩「東肩ルート」
1990年11月3日
石際 淳(春日井山岳会),東田良治(三菱自工山岳部)
左方カンテから北沢フェース左の凹角を抜けるこのルートは実にすっきりしたラインで,フリークライミングの楽しさを満喫できるいいルートである。特にジェードル2ピッチ目のレイバックは北沢フェース最上部のすごい高度感の中で完全なレイバックを強いられる。注文の多い料理店から継続すれば,5級以上のピッチが5ピッチ続くいいラインになる。マルチピッチのフリーを目指すクライマー諸氏にはぜひ登っていただきたい。必要なギアはフレンズ,ロックス各1セット。
槍見のあたりは紅葉がすばらしい。いいペースで取付まで行く。左方カンテに取りつき,気分良くロープをのばす。東田さんも少ないランニングで快調にとばしている。ジェードルルート1ピッチ目は東田さんに行ってもらう。なかなかいやらしそうで,垂直の凹角に入るところで人工に切り替える。ピンは多いのでスムーズに登りコールがかかる。私もフリーでトライする。東田さんのザックも背負っているので結構つらい。凹角手前がいやらしかった。凹角に入るとフィンガージャム等でハーハーゼーゼーの力のいるクライミングであった。一回ハーケンに乗ってしまった。2ピッチ目は石際リードで「鼻血の出そうな」レイバックをやっつけ,今度は荷上げをして東田さんもフリークライミング。お昼に終了したので烏帽子岩も登って楽しかった。帰りは高山で白水(今はもうありません)の大盛りチャーハンを食って帰る。
槍見7:00 取付8:40 ジェードルルート終了12:20 東肩ルート取付13:00 烏帽子岩てっぺん13:45 東肩14:30 クリヤ谷15:30 槍見16:30