錫杖岳三本槍第一岩峰東面フェース初登攀
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兵工山の会の西野加郎氏から昭和36年〜38年にかけて錫杖で初登攀された記録の第二弾です。

兵工山の会 機関紙「石楠花」第30号より



登攀日  昭和36年8月15日
メンバー 谷 武士,石田 勝

記録
取付9:30 第一テラス12:00 第二テラス14:00 第三テラス15:00 終了点18:00

三本槍の東面フェースは高距約70m位であるが,岩は硬くてリスが少なく,全体にハングしており,その上部分的にいやなハングが多い所である。 我々の最初の計画にはこれを登攀すると云う予定はなかったが,急に登攀を行う事に決った。最初は谷さんと喜田さんが登る予定だったが途中で喜田 さんの都合が悪くなって小生の方にお鉢が廻ってきた。

岩小屋を7:00にアタック隊の谷,喜田両氏が出発。少し遅れて大西氏以下の5名のサポート隊が出発する。全員一寸バテ気味なのか,取付の岩小屋に行くまで 時間がかかり過ぎた。9:30谷氏をトップに喜田氏はセカンドで登攀を開始する。

@の地点までは最初からハングしており,ハーケンを打ちながら4m程直上する。ここはハーケンが少ししか入らず,グラグラするハーケンにアブミをかけて登るので大分 疲れた様子。ここより喜田氏がカンテの所を廻り込んでAの所の一段上のバンドに上がるのであるが,このカンテが非常に悪い。Aのバンドに出た喜田氏がビレー用のハー ケンを打ったとき左手の指を怪我したので,サポート役の小生が喜田氏と交代した。

T1(テラス)に居た谷さんにゴボー抜きの如くテラスまで引き上げられる。そこから小生がトップとなりAのバンドにハーケンを1本打つ。これは苦労した。喜田さんの バランスやテクニックの良さに驚かされた。

AからT2まではのっぺりとしたフェースで,ハーケンを連打して左上の方へトラバース気味に登るが,ここもハーケンが入らず苦しい。セカンドがT2に到着し再び小生がトップに立つ。 ガリー状の上部はハングしており,ここもハーケンが入らず,先の方が2cm程入ったやつにアブミをかけて乗越そうとした時ハーケンが抜けて3m程落ちた。が幸いその下のハーケンの 所で止まった。何とか強引に上のバンドに出るとその上もまたハングしており身体を伸ばす事が出来ないので(背が高いと損をする?),かがみながらカンテの所をトラバースして 廻り込みT3Dに到着する。ここでセカンドと一緒になり,昼飯とする。

次のピッチは谷さんとトップを交代する。上方のブッシュへ出るまでがまたまたハングしており,背の低い方(失礼)は何かと不便で,ホールドもつかまれず大分苦しまれたので 小生と替った。この頃より雨が降り出し,地下足袋で登った小生はヒヤヒヤで非常にビビった。DからEまではそのハングを越すとあとは非常に楽で左へ左へルートをとり, 頂上の少し下で一般ルートに出た。

ザイルを解こうとしたが,さっき落ちたときのショックで結び目が固くなり,なかなか解けず困った。サポートの喜田,西野両氏の待つ岩小屋へ帰る途中,コルからの草付斜面が 雨に濡れて地下足袋が滑りそうで,この草付の方が岩より恐かった。

雨はドシャ降りでペコがハラハラ(ハラペコの意味)になったので急いで降りかけると,牧南沢(本流)の出合付近で大西氏等の出迎えをうけ,熱い紅茶を戴く。 岩小屋に帰り着替えをして久し振りのケムリ(オーバーかな?)を一服吸うとやっと初登攀をしたという様な気になりかけたが,考えてみるとあれ位の所では何かこんな事を云うのは 照れ臭いので,余り喜ばない様にした。

大西先輩始め諸先輩及びポン友浅井君のサポート,良きパートナーの谷先輩のおかげで小さなものですが初登攀を成功出来まして大変有難うございました。